兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学 地域ケア開発研究所

保健所ならびに市町村保健センター間の
情報連携を見据えたデジタル化推進に関する研究報告

地域ケア開発研究所では、令和5年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)を受けて、調査研究を行いました。その結果を報告します。
研究期間 令和541日から令和6331
研究メンバー
研究代表者  増野園惠(兵庫県立大学地域ケア開発研究所)
       林知里、本田順子(兵庫県立大学地域ケア開発研究所)
       石井美由紀、坂下玲子(兵庫県立大学看護学部)
       大島裕明(兵庫県立大学情報科学研究科)
       浦川 豪(兵庫県立大学減災復興政策研究科)
       神原咲子(神戸市看護大学看護学部)
       菊池宏幸(東京医科大学医学部)
       毛利好孝(姫路市保健所)
研究協力者  藤田さやか(兵庫県立大学地域ケア開発研究所)
       朝熊裕美(兵庫県立大学地域ケア開発研究所)
       石井安彦(釧路保健所)
       森千恵子(神奈川県医療危機対策本部室)
       村岡広代(神奈川県小田原保健福祉事務所)

新型コロナウイルス感染症の対応においては、急増した感染者・濃厚接触者の把握と把握後の対応に大きな遅れが生じ、混乱をきたした。その要因の一つに、保健活動における情報収集・情報集約のデジタル化の遅れがあげられる。保健活動におけるデジタル化は、感染症対応のみの課題ではない。コロナ禍以前より、国民の健康と安心安全な生活を守るための次世代型保健医療システムの構築に向け、ICT活用によるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進が議論されてきた。感染症流行等健康危機に迅速かつ的確に対応するためには、平時の保健活動のデジタル化・DX推進が不可欠である。地域保健行政の中心である保健所からは、デジタル化の早期達成が要望されており、喫緊の課題である。しかし、保健所や自治体規模によっても異なる具体的な課題については明確ではなく、保健所行政のデジタル化・DXを推進する具体的な方策も示されていない。そこで本研究では、地域保健活動のデジタル化推進の現状と阻害要因を明らかにするとともに、保健所・保健センターにおける効果的・効率的な情報連携を進め保健行政のデジタル化および地域保健活動におけるDX推進に資する具体的な資料を作成することを目的とした。

研究協力への同意が得られた保健所及び行政企画部に対して行ったヒアリングからは、新型コロナウイルス感染症への対応フローを、デジタル化の状況および発生した課題やその対処と合わせて流行のフェーズ(波)毎に作図して整理した。次に、ヒアリング結果を元に質問紙を作成し、全国の保健所と保健センターに対する全国調査を実施した。その結果、190の保健所および239の保健センターより回答が得られた。保健所における新型コロナウイルス対応では、業務の効率化・省力化のためにデジタルデータによる情報入力・情報共有・情報管理がさまざまな方法で試みられたが、デジタル化の導入は保健所によって差が生じていたこと、デジタル化対応後にも「入手や時間が余分に必要」「電話での確認が必要」「情報管理がしづらい」など課題が多く残っていたことなどが明らかとなった。また、新型コロナウイルス感染症対応において保健所と保健センター間で実施された患者情報等に関する情報共有は主に電子メールや電話、対面などの方法がとられていたことも確認された。デジタル化を進めるうえでの課題として、保健所・保健センター共に「組織風土・体制」「IT専門家の確保」、「職員のITリテラシー教育」が上位に挙げられた。保健活動のデジタル化推進の参考となりうる他分野事例として災害発生後の主要な災害対応業務支援システムについて調査し、新しい技術を利活用する概念としてCOTS(commercial off-the-shelf)の採用や定型業務と非定型業務を明確にし、定型業務のための既存システム等スタンドアロン型の情報システムと非定型業務のための柔軟性の高い仕組みの両面を検討すべきであることなどが明示された。海外事例としては、英国における新型コロナウイルス感染症対応とEUにおける今後の健康データ共有に関する取り組みについての情報を得た。